山陰探訪Blog

山陰の極私的名所をぶらりと巡る

島根半島を行く①

 四季の中で最も好きな季節が夏。多分、子どものころに経験した、夏休みが始まっときのわくわくする感じが未だに身体に染み付いているからだろう。多くの予感に満ちた夜明け、午前中のまどろみ、人けのない路地、開け放した窓から漏れるラジオの音・・特別な長い休みがなくなった今でも、7月を過ぎるとそわそわと落ち着かない。

 旅に出たいな。

 それは温泉とかきらびやかな街ではなくて、誰も気にとめないないようなささやかな場所でいい。

 7月下旬のよく晴れた朝、思い付いたのは島根半島を巡るということだった。

  島根半島は、鳥取県境港市の北側で島根県美保関町から大社町まで東西65㎞に及ぶ日本海に面した半島だ。単純に端と端を直線で結ぶと65㎞ということで、実際の道路の長さは倍以上になる。私は境水道大橋を通って島根半島に出ると、そのまま半島の東端の美保関灯台松江市美保関町)まで行き、ここから西端の日御碕灯台を目指すルートを設定した。

 美保関町の中心街を抜け、暫く走ると行き止まりの大きな駐車場に着く。車を降りて少し歩けば美保関灯台が見える。説明によると、灯台は1898(明治31)年に建設された山陰最古の石造灯台という。夏空に白亜の灯台は絵になるね。

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 残念ながらこの日は灯台の中に入ることはできなかった(海の日などに一般公開されているらしい)。

 灯台の横の建物は「灯台ビュッフェ」としてレストラン営業しているようだ。7月中旬から8月下旬の週末は営業時間を延長。夕方からはイカ釣り漁船の漁り火を眺めながらディナーを楽しむ「いさり火カフェ」となる。

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 なるほどね。灯台ならではの趣向だね。数年前にここに来た時は昼なお寂しげな場所だった(怖いぐらい)ので、こうした飲食店がつかの間でもオープンすればちょっと雰囲気も変わるかも知れない。

 

 しかし、何といっても、島根半島の大きな魅力は、日本海の景観。

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 灯台の周辺に設けられた展望台から水平線を見渡す。遮るものは何もない。岬の森は深く、おびただしいセミの鳴き声に包まれる。地球の果てに独りだけ置き去りにされたような気持ちになる。以外とこんな場所はないかも。あるんだろうけど、大人になってめっきり行かなくなった。

 

 島根半島から見える日本海は場所によって様相が異なる。その違いを楽しみながら、気が向いたところで止まり、時間を過ごす。

 

 来た道を引き返し、美保関町の街中に。美保神社門前町として栄えた歴史が、今でもあちこちに残っている。

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 美保神社は「古事記」、「日本書紀」に記された国譲り神話に登場する五穀豊穣、音楽の守護神、ミホツヒメノミコトとコトシロヌシノカミ=「えびすさん」を祭った神社。全国各地にある「えびす社」3385社の総本山という由緒ある神社だ。さらに、ミホツヒメノミコトが音楽の神であることから、数多くの楽器が奉納されている。日本最古のアコーディオンが公開されたことでも最近、話題になった。神社仏閣に興味がない人でも門前町の風情を残す街並みは楽しめるのではないでしょうか。

 参道脇の通称「青畳通り」。今でも当時の建物が残っていて、玄関には屋号なども記されていて面白い。

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 雨の日は通路に敷かれた石が青く見えるそう。

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  たまたまこの日、美保神社で挙式が行われていて、白無垢の花嫁さんを見ました。厳かな感じで素敵でしたね。

 

 神話の世界観は、はっきりいって好き嫌いが分かれるところだと思う(興味があるなしか)。私は正直なところ、場所の雰囲気に浸る、人と話す、美味しいものを食べるのが好きなので、神社仏閣はあまり優先事項ではない。それでもさすが神話の故郷「出雲」というべきか、島根半島には神秘的な雰囲気がそこはかとなく漂っている。

 夏の一日は長い。思いつきで始めたちょっとした旅は、まだ始まったばかり。